術後2日目、退院
入院3日目はもはや長期入院患者なのか
まだ食欲はないしやっと1人でトイレに行けるくらいだが、点滴やドレナージの管が外れてがぜん元気(な気分)になる。*1ベッドを出て備え付けのソファに腰かけて本を読んでみたり。
それにしても入院3日目ともなると、看護師さんの放置度も急上昇である。
基本的に、看護するというよりは事務連絡のために来る感じだ。
「今日の問診で問題なかったら退院できるから」
「経理担当者が金額と支払い方法を連絡しにくるから、そしたら〇階に行って支払いしてね、そのあと腕のネームタグを切るから、そうしたら帰っていいから」
長らく入院してしっかり英気たっぷりの患者か、もしくはお尻のおできを取ったくらいの軽病患者か、くらいに軽く扱われる。
もうなんでも一人でできるでしょ、って感じ。
言われてみればけっこう一人でできるのだが、もうちょっと優しい言葉とかないのかしら、まだお腹に穴空いてるんだけど。
朝食も案の定
確かに食事も3度目となると、概ね予測はできていた。
昨日は「昼食と夕食を逆に出される」からの「昼夜同じものを出される」エラーだったが、3日目の朝食は
「ぜんぶ頼んだものと微妙に違う」
という新手が出た。
頼んだのは、
チキンライス、ブロッコリーのスープ、デザート
来たのは、
ホットサワーチキン(甘辛い鶏)、コーンスープ、デザート
ここまで間違われると、作業者に対するさまざまな疑惑が湧く。昨日までは「配膳する人字が読めないのかな?」「申し込み用紙の左が朝食、真ん中が昼食、右が夕食って徹底されてないのかな?」と思っていたが今回のエラーを経て、
「調理人も配膳する人もチキンライスってどんな料理か知らないのかな?」
とまで疑惑が増大した。
想像以上にあっさり退院、タクシーで自宅へ
食後の問診であっさり退院許可が出る。それからは早かった。
お昼までに退出しないと追加料金を取られるそうだ。(このあたり、いかにもシンガポールらしい)しばらく待っていたら経理担当者がやってきて「保険会社のドキュメントに不備があるから手続を完了できない。もうちょっと待ってね」とのこと。手続の不備とやらで待たされるのもシンガポールにはよくあることなのでとりあえず部屋で待つ。
経理担当者に、ついでに「ドキュメントの準備が終わったら〇階にいかなきゃいけないの?」と聞いたら「あなたは保険会社がすべて支払いするから行く必要ないわ」。人によっていうことが違うのもシンガポールではよくあること。支払に関しては看護師より経理担当者のいうことのほうが確からしそうなのでその言葉を信じることにする。
念のため、その後部屋に来た看護師さんに「支払手続が終わったらいつでも帰っていいって言われたんだけど腕のタグはいつ取ればいい?」と聞いたら、その場でタグをちょきんと切って「じゃ、支払終わったら帰っていいから」と言って出て行った。
えっそんなあっさり?
その後待つこと数十分、内線電話を受けると経理担当者が
「手続きが終わったからもう帰っていいわよ」。
そんなあっさりでいいんですか、そうですか。
近くに誰も見当たらないのでさっさと着替え、荷造りをし、会社が送ってくれたお見舞いバスケットをかついで病院を後に。
部屋を出てエレベーターに乗る直前、遠くで看護師さんが手を振っているのが見えた・・・
お見舞いバスケット。これが退院後の貴重な食糧となった
向かいが謎のオフィスビルで、黒魔術的な銅像を配置しておりちょっと怖い(特に夜)
*1:ちなみにドレナージの管を外すのはなかなか痛かった。痛いというか「得体のしれないことを腹の中でされている」恐怖感が半端ない
手術1日目。カオス。
めまいが生じて再輸血
(※無事に仕事復帰したのだが、したとたん残業の嵐で更新が途切れる。命が危うい。)
手術翌日。正直朦朧としていて記憶があまりない。
朝起こされて一番シャワーを浴びる。介添を得てなんとか終えたものの、めまいでぐったり。当然食欲はない。
ドレナージ(術後腹部から滲出している体液を体外に逃がす)のための管+300mlくらいのボトルがぶらさがっておりこれが大層邪魔。見た目もグロい(ので写真を撮らなかった)しなんとなくもったいない。
わたしの大事な血液(+その他の体液が)・・・!ボトル内の体液が赤色をしているのでよりもったいなく感じる。
自然気胸(肺気胸)の治療方法 【胸腔ドレナージ】 自然気胸(肺気胸)体験情報局
(↑部位は違うものの雰囲気こんな感じ)
朝食(何を食べたか覚えていない)を一口二口口に入れてダウン。点滴を輸血に切り替えてもらう。
食事を間違えられる
食事は朝昼晩、所定の用紙に記入して希望したものを食べられる。
メニューを見ると、サーロインステーキ、親子丼、かつ丼等なかなかアグレッシブなメニューが並ぶ。
む、無理。
手術直後、そんなものを食べる食欲はとても無かった。
なかったのだが、「もしかしたら、おいしそうなものが出てきたら食べられるかな?」という期待もあり、いちおう喉を通りそうなものを選ぶ。
昼食→コーンスープ、おかゆ、フルーツ
夕食→味噌汁、さわら定食、ヨーグルト
(用紙はこんな感じ。これは翌日分なのでチェックしてある場所が違うがご愛敬)
ところが。
昼食に出てきたのは味噌汁、さわら定食、ヨーグルト。
「あ、夕食と間違えたな」と思ったのだが、どのみち食べられないしぐったりしているのでスルー。コーンスープとヨーグルトを数口すする。
昼食後数時間して、看護師さんが「夕食はおかゆでいい?」と確認しに来たので「ふむふむ、昼食の間違いに気付いて、昼食の予定だったおかゆを夕食出してくれるのだな」と夕食を待つ。
すると、夕食に出てきたのは・・・
味噌汁、さわら定食、ヨーグルト。
えっデジャヴ?
オペレーションどないなっとんねん。
しかも昼食の時に「まだ固形物は食べられない」って確認したばかり。
ここはさすがにクレームを入れて作り直してもらう。
おかゆは美味で5口くらい食べられた。
言葉のせいかオペレーションのせいなのか
それから、ちょっと困ったのが看護師さんとのコミュニケーション。
皆英語ネイティブではないしシンガポール人でもない模様。
よって、言葉がけっこう片言なのだ。(好意的に見れば、朦朧としている相手にわかりやすく伝えようとしているともとれるが。。。)
例えば、術後の回復力を高めるために歩けるだけ歩かせるのが通例。
看護師さんから
「After finish lunch, we walk」と言われて”昼食が終わっ、たら歩いてね” の意?”歩けるよ” っていう意味、でも ”we"って言ってるから”一緒に歩きましょうね”という意味かな。。。と思っているといつまでたっても看護師さん来なかったり。(結局自力で歩きました)
オペレーションどないなっとんねん、とここでも思うこと数回。
朦朧としてるし食欲はないし寒気も続いている(どうやら発熱していたらしい)。
麻酔のせいか喉が猛烈に痛く、黄色い痰が出る。咳も出る。
本当に明日退院できるのだろうか・・・
手術後0日目。寒い。
風邪?
目が覚めると目の前にT先生の姿が。ニコニコしながら、
「手術6時間かかったよ~」
事前に3時間と言われていたが、どうやら倍かかったらしい。
Y先生も
「思った以上に数が多くて・・・出血も多くて・・・」と。
(このあたりはまだ朦朧としていたのでうろ覚え)
どうやら、けっこう大変な手術だったらしいが無事終了したようだ。
ふと、喉が猛烈に痛いことに気づく。とにかくだるく、熱もあるような気がする。
朦朧⇒検温⇒朦朧
とり急ぎ家族に手術成功の連絡をした後は、ひたすら眠る。が1時間おきに検温がありなかなか寝かせてくれない。
こちらの病院は検温も日本とちょっとノリが違う。日本だと看護士さんが優しく手を取ってくれるイメージだが、ここでは「Hi, 調子はどう?じゃあ検温するわね!」とがしっと手を取られる。ノリがやっぱりラテン系。
それから、人種がちょっと違うせいか(私が診てもらったのは推定インド系、フィリピン系、中華系の看護士さんたち)日本人の「正しい顔色」がわからないと見えて「あなたの唇はいつもそんなに白いの?」と聞かれた。
鏡見てないけどそれ間違いなくいつも通りの顔色と違うから!貧血だから!!
他にも、手術後とにかく寒気が納まらなかったので冷房を止めて布団を追加してもらうようお願いしたのだが「熱があるときは身体を冷やしたほうがいい」とタオルケット1枚追加のみ。冷房は弱めてくれたような気がするが。そういえばシンガポール人の同僚も「風邪をひいて熱っぽいときは身体を冷やせ」と言っていた。ところ変われば対処法も変わるということか。これはなかなかしんどかった。
ちなみに手術後発熱するのは正常な反応で、身体が治ろうとしている証拠らしい(病院からの説明は無く後からネットで調べて知った)。
手術当日から通常食
手術が夕方終わり、数時間すると夕食の時間。
本来は自分で食べたいものを選べるのだが朦朧としていてそれどころではないので看護士さんに選んでもらう。
マカロニスープ、メロン、お茶。
正直、とても食べるどころではない。。。
それでもマカロニ数口とメロンを口に流し込む。こんな時でもフルーツはおいしく感じることを発見。以後退院してから数日も、フルーツ中心の食事となった。
また、しきりに水を飲むように言われたのだが出された水が水道水。元気なときでも飲んだことがないのに。カルキ臭くて辟易した。これがミネラルウォーターだったらもう少しスムーズに水分をとれたと思う。
あっという間に手術当日。朝5時半集合って。
手術日の決定は「希望日の4日前まで」
そんなこんなで治癒までの時間と金銭面の問題がクリアになったためシンガポールで手術を受けることに決定。手術日の決定は、希望する日の4日前までに電話かメールでアポイントを取るようにとのこと。
うーん、カジュアルすぎる。虫歯1本抜きに行くレベルでカジュアルすぎる。
とはいえ仕事のやりくりもあるため1か月以上前に日程を決定。日本、シンガポールともに業務量が減るGW期間に設定。
手術当日、集合時間は「朝5時半」
手術までは通院義務も何もなし。(おかげで手術2日前まで躊躇なく出張をスケジュールにぶち込む)手術前日の午前中に簡単な検査(問診+採決+レントゲン)を受けてその日は帰宅。
私「・・・で先生、手術のアポイントが朝9時半ですが何時に病院に来ればいいでしょう?」
T先生「事前の準備もあるから朝5時半までに来てね」
・・・朝5時半。
どうしようラジオ体操の時間よりも早い。
度重なる出張で早起きには慣れているが、それにしても手術のために朝4時起きとはなかなかの体験である。
それもこれも、シンガポールが小さな島国だからできる芸当とも言えよう。
当然NOという権利は私にはなく、ただひたすら寝坊しないように祈りながら眠りについた。
手術直前、思わぬ刺客
朝無事に起床、シャワーを浴びてタクシーで病院へ。
時間外受付を済ませた後病室へ。入院着に着替えて看護師さんを待つ。
手術の前準備として、子宮口を広げる薬を入れるのだ。1時間ほどすると薬が効いてくる。
これが思いのほか痛かった。入れる前に「人によっては痛くなることがある」と説明を受けたがそれにしても痛かった。人生で一番つらかった生理痛を10倍ひどくしたくらい痛かった。
今回の手術で一番つらかった瞬間はいつかと問われたら、迷いなくこの手術直前の時間だと答えるだろう。
陽気なノリで手術へ(記憶ないけど)
先の薬剤投与で七転八倒し待つこと2~3時間。やっと手術室に通される。
日本人のY先生とローカルのT先生で執刀してくれる。
先生を見てほっとし、「先生、い、痛いです~」と涙目で訴える。
先生はこんな患者を山ほど見てきているのだろう、「あ、時々痛くなる人いるんですけど大丈夫ですからね~」と。いや医学的に大丈夫でも私の痛覚的に大丈夫じゃないんです。涙の訴えも笑顔で退けられる。早く麻酔打ってくれ。
その後まもなく麻酔医の先生(初対面)と挨拶するも「なんでそんなに緊張してるんだい?リラックスリラックス!ハハハ」をかなりラテンなノリをかまされる。
緊張ではなく、単に、痛いだけです。はよ麻酔を。
その後麻酔を入れられる前、T先生と麻酔医の先生が握手だかハイタッチだかしていたような・・・やっぱり南国だから手術も陽気なノリなのかな・・・と思いながら記憶が遠くなる。
ほかに打つ手なし。手術を決意
病院で現実に直面する
結局、帰国の間病院に行く時間がなかったのと、どうせ治療をするなら住んでいるところの近くがよいだろうという判断でシンガポールに戻ってから病院を訪ねる。
選んだのはR病院。日本人クリニックが併設されており日本語が通じる点、大病院なので転院の必要がなさそうな点から決定(シンガポール在住者は大体どこかピンとくると思うが念のため伏字)。
まずは日本人クリニックで診察してもらう。
「筋腫が相当大きくなっていて…エコーでは映りきらないですね。数も多いです」
全体で推定20㎝近くになっているのでは、とのこと。そりゃ外から触れてもわかるはずである。
その後MRIを受け、改めて子宮の大きさが18㎝になっていること、10㎝級の筋腫が2個、3㎝級が3個、その他多数の筋腫があることが判明した。
このとき頭をよぎったのは「腹腔鏡で手術できるのだろうか」ということである。
診察してくれたY先生は「この大きさだとまず開腹でないと無理だと思います」
うーん、それはまずい。
主な手術の種類
なぜ開腹だとまずいかというと、回復にかかる時間が腹腔鏡の比でなく長くなるからだ。
調べた範囲での筋腫を小さく/除去する手術の種類は以下。(専門家ではないので詳細はかかりつけの病院で確認することをお勧めします)
- 開腹手術:最も一般的。筋腫に触れながら手術するので確実で再発のリスクが少ない。一方、入院期間や回復までに時間がかかる。3週間は仕事に穴をあけることになりそう。ちなみに縦切り、横切りとあるらしい。
- 腹腔鏡手術:お腹の何か所かに穴をあけ、膨らませた状態で中に腹腔鏡を入れて摘出する手術。お腹の傷が最小限で済むため体に与えるダメージが比較的小さいが1より再発のリスクが高い。1週間程度で職場復帰できる模様。
- 子宮鏡手術:2の、膣からスコープを入れるバージョン。外から見えるところに傷がつかないが2同様再発のリスクがある。
- UAE(子宮動脈塞栓術):回復せずにカルーテルを使って筋腫を栄養する動脈を塞ぐ。術後の回復は上記のうちもっとも早い。数日で職場復帰、2週間で運動可。ただし異常分娩の症例が報告されており、妊娠を望む患者には適用されないことが多い。
- リュープリン治療:ホルモン注射で疑似的に閉経状態を作りだし筋腫を小さくするというもの。更年期障害のような副作用が起こることがあり、体への負担があることから継続期間は6か月まで。やめれば元に戻る。これ単体の治療ではなく、1~3の手術時に負担を小さくするために行われる。
前述のとおり私は駐在員としてシンガポールに来ているので、仕事に穴をあけるのはかなり喜ばれない(駐在員が何百人といる企業さんなら代わりがいるかもしれないが、残念ながら私の職場は「一人が倒れたら一巻の終わり」のリスキーな環境にある)。コスト面、実務面双方から考えて穴をあけられるのは1週間まで、どんな不測事態があったとしても2週間が最長、と判断。それより長くなるようであれば、後任者をアサインして自分は日本で治療を続けるしかない。
となると、選択できるのは2か3のみ、ということになる(4も考えたが治療例がまだ少なくちょっと不安があるので除外)。
日本で受けるかシンガポールで受けるか
もしシンガポールで腹腔鏡手術を受けられないのなら日本に帰るしか手がないのだが、それもまた問題がある。
調べた範囲、実家がある関東圏でこの大きさの腹腔鏡手術を受けてくれそうな病院が見当たらないのだ。
有名な順天堂医院でさえ、「筋腫の大きさが臍を超えたら内視鏡NG」とある。
子宮筋腫│内視鏡で治療できる疾患│順天堂大学医学部付属順天堂医院 婦人科内視鏡チーム
もしあったとしても、術前検査→手術→退院→渡航を2週間で、というのはかなり無理がある、気がする。
うーん、とうなっていると、Y先生から神の声。
「ローカルの先生で経験豊富な方がいらっしゃるので一度コンサルテーションを受けてみますか?」
「ダイジョウブ」、そしてガッシリと握手
ローカル医院のT先生は明るく柔和、見るからにベテランそうな自信あふれる先生である。
日本人の診察にも慣れているのであろう、「シキュウキンシュ」「ランソウ」等の用語は日本語で説明してくれる。
T先生の目からも私の筋腫は大きいようで「オオキイデース」を連発。
いや、そこは英語でわかるよね、普通に。でもちょっとかわいいので素直に聞く。
T先生の見立てによると、この大きさでも腹腔鏡での手術が可能とのこと。
ただあちこちにいろんな疾患があるので4つの手術を行う必要があるらしい。
- 子宮の外側にある筋腫を腹腔鏡で摘出
- 子宮の内側にある筋腫を子宮鏡で摘出
- 左右卵巣の嚢腫を腹腔鏡で摘出
- 膣内壁のポリープを摘出
手術のフルコース。これでも3時間で終わるそうだ。
ちなみに「切除した細胞がもし悪性でも飛び散らないよう最新技術を使うから問題なし」とのことだった。よほど画期的な技術らしく複数回説明されたけどどう画期的かは非専門家にはよくわからず。
T先生のこれまでの施術例も紹介してもらい、確かに横綱レベル(?)の手術実績もお持ちだとわかる。
診察の終わりに「ダイジョウブ」とにっこり、固く握手。
手術するならT先生にお願いしたい、と思うのに時間はかからなかった。
さすがシンガポール、治療代めっちゃ高い
ちなみに、多くの人が気にするであろう治療費だが、日本の比ではなく高い。
12年前に卵巣嚢腫の手術を受けた際は8日間入院して30万円強。
さて今回の手術はいくらでしょう?
正解は、40,000ドル強(=320万円)。
しかも入院期間は2泊。いやーこりゃぼろ儲けだわ、と思ってしまった(すみません)。
つくづく保険に入っていてよかった。
それにしても、なんだかんだ日本ってほんとに恵まれている。離れてわかる故郷の素晴らしさよ。
プロローグ
直視せよ、それは中年太りではない
思えば「それ」の存在に気付いたのはもう1年近く前のことだった。
東京からシンガポールに転勤して1年が過ぎ、激務にも味が訛りが強い現地の発音にも湿気が多い気候にも慣れてきた頃だ。*1
明らかに、下っ腹が出ている。
当時38歳、それまで「飲んでも食べても(劇的には)太らない」を自任してきたもののやっぱり寄る年波には何とやらで加齢には逆らえない。毎日ラクサ*2の生活はやっぱり太るよなあ、控えないとなあ、と思った。いや思おうとした。
しかし、同時に気付いてもいた。
その出っ張った下腹部に触れると、指が明らかな異物に触れることに。
何度も気のせいだと思おうとした。しかし、見えた聞こえた匂ったことなら気のせいにもできようものの「それ」は何度触れても厳然と下腹部で自己主張を続けている(と書くとエロ小説じみているがそういう話ではない)。「百聞は一見に如かず」という言葉があるが、それなら「百見は一触に如かず」と言えよう。そのくらい「それ」の硬さと大きさは指越しに禍々しい存在感を放っていた(と書くとエロ小説じみているがそういう話ではない)。
とにかく、私の「気のせいだと自己暗示をかける」作戦は功を奏さず、贔屓の鍼灸師に「お腹がすごく硬い、治療したほうがいい」と下っ腹に布団針レベルの鍼を刺されるわ、ベトナム出張で食中りになり駆け込んだクリニックで「このお腹、自分で気づいてる?紹介状書いてあげるから大病院で診てもらったほうがいい」と封書を渡されるわ、つまり私のお腹にかかわった誰もが「これは尋常ならざる事態である」と警鐘を鳴らしたのである。
「それ」=子宮筋腫について
ここまで、あたかも思い当たる節が全くないような書き方をしてしまったが、私にも「それ」に対する多少の知見はある。
子宮筋腫。
何なら、12年前に手術したことだってある。そのときのメインは卵巣嚢腫のほうで、筋腫はついでに取っておくくらいだったけれども。
私が得た子宮筋腫に関する情報は以下。
- 子宮内外にできる良性の腫瘍。悪性化は稀。
- 発生原因は不明。遺伝、食生活、ストレス等々によるホルモン(エストロゲン)異常と言われているが究明されていない。
- 40代女性の4人に1人が罹患しているといわれている。
- 主な症状は月経不順、月経過多(に付随する貧血)、不妊、早産、腹部の痛み、頻尿。ただし自覚症状が全くないケースも多い。
- 大きさは人によってさまざま。数㎝レベルのものから大きいと20㎝を超える例もある。
- 閉経後には小さくなるが、手術やホルモン治療以外の方法で閉経前に小さくすることは困難。
ここで着目したのは「閉経前に小さくすることは困難」という点である。
この下腹部に何かを身ごもっている状態はエクササイズ等では改善されない、ということになる。
さてどうしよう。
でも死ぬ病気じゃないし。
仕事忙しいし。
と言っているうちに月日が経ち、旧正月のホリデーで帰国したある日。
お腹はいよいよ成長を続け、妊婦といっても疑われないくらいになっていた(生まれないけど)。
休暇のはずなのに絶え間なく送られてくる上司からのメール。上司も多忙なので仕方ないとは思いつつそっと開くと、そこには
「休暇中かとは思いますが明日までに○○(=結構重いレポート)の提出をお願いします」
……。
頭の中の「ワークライフバランス」という言葉が「仕事か生活か」、否、「仕事をとるか命を取るか」に変換された瞬間であった。
仕事を言い訳に現状から目を逸らしている場合ではない。
そうだ、病院行こう。
レポート終わってからね…