ほかに打つ手なし。手術を決意
病院で現実に直面する
結局、帰国の間病院に行く時間がなかったのと、どうせ治療をするなら住んでいるところの近くがよいだろうという判断でシンガポールに戻ってから病院を訪ねる。
選んだのはR病院。日本人クリニックが併設されており日本語が通じる点、大病院なので転院の必要がなさそうな点から決定(シンガポール在住者は大体どこかピンとくると思うが念のため伏字)。
まずは日本人クリニックで診察してもらう。
「筋腫が相当大きくなっていて…エコーでは映りきらないですね。数も多いです」
全体で推定20㎝近くになっているのでは、とのこと。そりゃ外から触れてもわかるはずである。
その後MRIを受け、改めて子宮の大きさが18㎝になっていること、10㎝級の筋腫が2個、3㎝級が3個、その他多数の筋腫があることが判明した。
このとき頭をよぎったのは「腹腔鏡で手術できるのだろうか」ということである。
診察してくれたY先生は「この大きさだとまず開腹でないと無理だと思います」
うーん、それはまずい。
主な手術の種類
なぜ開腹だとまずいかというと、回復にかかる時間が腹腔鏡の比でなく長くなるからだ。
調べた範囲での筋腫を小さく/除去する手術の種類は以下。(専門家ではないので詳細はかかりつけの病院で確認することをお勧めします)
- 開腹手術:最も一般的。筋腫に触れながら手術するので確実で再発のリスクが少ない。一方、入院期間や回復までに時間がかかる。3週間は仕事に穴をあけることになりそう。ちなみに縦切り、横切りとあるらしい。
- 腹腔鏡手術:お腹の何か所かに穴をあけ、膨らませた状態で中に腹腔鏡を入れて摘出する手術。お腹の傷が最小限で済むため体に与えるダメージが比較的小さいが1より再発のリスクが高い。1週間程度で職場復帰できる模様。
- 子宮鏡手術:2の、膣からスコープを入れるバージョン。外から見えるところに傷がつかないが2同様再発のリスクがある。
- UAE(子宮動脈塞栓術):回復せずにカルーテルを使って筋腫を栄養する動脈を塞ぐ。術後の回復は上記のうちもっとも早い。数日で職場復帰、2週間で運動可。ただし異常分娩の症例が報告されており、妊娠を望む患者には適用されないことが多い。
- リュープリン治療:ホルモン注射で疑似的に閉経状態を作りだし筋腫を小さくするというもの。更年期障害のような副作用が起こることがあり、体への負担があることから継続期間は6か月まで。やめれば元に戻る。これ単体の治療ではなく、1~3の手術時に負担を小さくするために行われる。
前述のとおり私は駐在員としてシンガポールに来ているので、仕事に穴をあけるのはかなり喜ばれない(駐在員が何百人といる企業さんなら代わりがいるかもしれないが、残念ながら私の職場は「一人が倒れたら一巻の終わり」のリスキーな環境にある)。コスト面、実務面双方から考えて穴をあけられるのは1週間まで、どんな不測事態があったとしても2週間が最長、と判断。それより長くなるようであれば、後任者をアサインして自分は日本で治療を続けるしかない。
となると、選択できるのは2か3のみ、ということになる(4も考えたが治療例がまだ少なくちょっと不安があるので除外)。
日本で受けるかシンガポールで受けるか
もしシンガポールで腹腔鏡手術を受けられないのなら日本に帰るしか手がないのだが、それもまた問題がある。
調べた範囲、実家がある関東圏でこの大きさの腹腔鏡手術を受けてくれそうな病院が見当たらないのだ。
有名な順天堂医院でさえ、「筋腫の大きさが臍を超えたら内視鏡NG」とある。
子宮筋腫│内視鏡で治療できる疾患│順天堂大学医学部付属順天堂医院 婦人科内視鏡チーム
もしあったとしても、術前検査→手術→退院→渡航を2週間で、というのはかなり無理がある、気がする。
うーん、とうなっていると、Y先生から神の声。
「ローカルの先生で経験豊富な方がいらっしゃるので一度コンサルテーションを受けてみますか?」
「ダイジョウブ」、そしてガッシリと握手
ローカル医院のT先生は明るく柔和、見るからにベテランそうな自信あふれる先生である。
日本人の診察にも慣れているのであろう、「シキュウキンシュ」「ランソウ」等の用語は日本語で説明してくれる。
T先生の目からも私の筋腫は大きいようで「オオキイデース」を連発。
いや、そこは英語でわかるよね、普通に。でもちょっとかわいいので素直に聞く。
T先生の見立てによると、この大きさでも腹腔鏡での手術が可能とのこと。
ただあちこちにいろんな疾患があるので4つの手術を行う必要があるらしい。
- 子宮の外側にある筋腫を腹腔鏡で摘出
- 子宮の内側にある筋腫を子宮鏡で摘出
- 左右卵巣の嚢腫を腹腔鏡で摘出
- 膣内壁のポリープを摘出
手術のフルコース。これでも3時間で終わるそうだ。
ちなみに「切除した細胞がもし悪性でも飛び散らないよう最新技術を使うから問題なし」とのことだった。よほど画期的な技術らしく複数回説明されたけどどう画期的かは非専門家にはよくわからず。
T先生のこれまでの施術例も紹介してもらい、確かに横綱レベル(?)の手術実績もお持ちだとわかる。
診察の終わりに「ダイジョウブ」とにっこり、固く握手。
手術するならT先生にお願いしたい、と思うのに時間はかからなかった。
さすがシンガポール、治療代めっちゃ高い
ちなみに、多くの人が気にするであろう治療費だが、日本の比ではなく高い。
12年前に卵巣嚢腫の手術を受けた際は8日間入院して30万円強。
さて今回の手術はいくらでしょう?
正解は、40,000ドル強(=320万円)。
しかも入院期間は2泊。いやーこりゃぼろ儲けだわ、と思ってしまった(すみません)。
つくづく保険に入っていてよかった。
それにしても、なんだかんだ日本ってほんとに恵まれている。離れてわかる故郷の素晴らしさよ。